“ASTRONOMICA®” (アストロノミカ)
ヤマモ味噌醤油醸造元ASTRONOMICA®研究チームが世界に投げかける日本の発酵食品の可能性
“ASTRONOMICA®”(アストロノミカ)。
それは秋田県湯沢市、豊かな水源と自然に恵まれ、冬は雪国になるというその土地で、150年もの歴史を背景に、一風いやだいぶ変わった天然醸造を続けるヤマモ味噌醤油醸造元の、社内研究チームの名称である。
ヤマモは、もともと秋田の伝統的な味噌と醤油の味を守り抜く、長く地元に愛されてきた醸造蔵だった。今でもその味と技術は、長年蔵を支え続ける職人たちによって継承され続け、安定の味を家庭の台所に提供し続けている。日本という国で求められる「いつもの味」、そして一般的に世界からの視線が期待する、いわゆる「古典的な」味噌、醤油蔵という顔もしっかり持ち続ける蔵だった。
それが7代目の高橋泰が家業を継いだ年から、大きく新たな展開へ事業が舵を取り始めることになる。「伝統の味」を守り続けていたからこそ、長年その蔵に眠り続けていた唯一無二の珍しい酵母菌の発見が、その大きなきっかけのひとつとなった。
その酵母を、Viamver®酵母(Zygosaccharomyces rouxii)、という。
ユニークな特徴をもったこの酵母は、ヤマモが2020年度の日本醸造学会で発表し、現在Viamver®酵母と名付けられ、自社の蔵付き酵母菌としてその存在と製法の両方に特許を出願している。
なぜ、この酵母がそんなに特別なのか。ヤマモはこれで何をしようとしているのか。
日本発の味噌と醤油における世界的な位置づけには、やはりどこへ出しても「伝統」という言葉が揺ぎ無く付きまとう。その言葉は国内外ともに純粋に称賛され、崇められ、変わらずに守り抜かれることを期待される。7代目はそこへ自ら問いを立てた。
日本の発酵醸造調味料には、まだまだ無限の可能性がある。国民ですら、その一部に慣れ親しむことで満足し、その先がまだあるかもしれないという想像に至らない。馴染んだ味が美味しいのだから、それは当たり前のことだ。決してネガティブなことではない。
ただ、今これだけ日本の発酵醸造調味料が世界のあちこちへ波及し、その影響の跳ね返りも手伝って国内でもその価値が見直されてきているというのに、ひとつの蔵が産業として生き残るには、年々難しくなる一方である。それはどうしてか。
それが、7代目高橋が目をつけた、これまで宝の持ちぐされのごとくひそかに埋もれ、開拓されることのなかった日本の発酵の新しい可能性である。
日本の発酵醸造調味料は、ひとくちに伝統の味と言っても数えきれないほどの種類がある上、それぞれも複雑な風味が絡み合った末に、蔵ごとの最終的な味が決まる。その最終製品を、もっと美味しく、あるいは変わらない味を求めて、成分を分析し造り方を見直すことはあっても、それを全く違う他の醸造物に応用しようという研究は、まだ日本では実績が少ない。
それは、前述のとおり発想として稀であるということと、単純にそこを開拓していく余裕とエネルギーがある蔵がなかなかないからだという理由に帰結する。「伝統の味」は、今や生き残っていくだけで大変なのだ。
そんな問題を産業全体の視点から見つめる高橋の前に、
通常、味噌の醸造に活用される酵母菌は好塩性と言って、塩のある環境下で元気に活躍するものが多い。ただしViamver®は違った。この酵母菌は、好塩性であるだけでなく、なんと塩がなくても元気に生きて活躍でき、かつ、アルコールを6%近く生成する能力を持つ菌だということが分かったのだ。
さらには、旨味成分に関連するコハク酸の高い生成能力も持ち合わせ、フルーツや吟醸香に似た華やかな香りも生み出す能力があることも確認された。
この新しい性格を持った菌との出会いを無限大に活かすため、高橋は社内外に研究チームを立ち上げ、この酵母を味噌醤油に応用するだけでなく、ナチュラルワインの醸造への活用や、新しい調味料試作の探求をチームで行っている。
発酵食品は、菌の代謝経路から特定の成分を造り出して利用する。ASTRONOMICA®とは、各種成分を星と捉え、無数の成分を星空、成分間の連携や代謝経路から星座や秩序ある惑星の運行というように、発酵のメカニズムから天体を連想して名づけられた。
これからASTRONOMICA®はどんな提案を世界にしていくのだろうか。
これまでも取り組み続けてきた伝統と革新。伝統的な造りの技術や思想から、Viamver®酵母を通じ味噌醤油の枠組みを飛び越え、ASTRONOMICA®としてその革新性をブランドとして形にしていく。
そのまず第一歩として、この冬、MONO MONTHLYではヤマモ味噌醤油醸造元既存の製品と、世界初となるこのViamver®酵母を使った新しい発酵調味料のうちいくつかを取り上げ、みなさんに体験して頂く機会を設けたいと思う。
純粋に美味しさを追求するために、柔軟にこの酵母が活かされた調味料。
一体、どんな味がするのだろうか。